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 いつからだろう。  僕はこうして、「僕」に殺される夢を、毎晩見続けている。  殺され方には、いくつかパターンがある。  ある時は首を絞められ、またある時はナイフで刺される。  現実世界において、ナイフで刺された経験はない。だが、稲妻が疾るという形容がふさわしいその強烈な衝撃は、あっというまに僕を貫く。  常に「闇の中」が舞台なので、周囲の状況は全くわからないが、高所から突き落とされ地面に激突するような衝撃で目が覚めることもあった。  得体の知れない毒物か何かを無理やり飲まされて、もがき苦しみながら死ぬこともあった。  特に知りたかったわけでもないはずなのに、楽に死ねる方法などそうそう無いということを、身をもって毎晩知らされる羽目になっている。  時間に換算すると、ベッドには十分すぎるくらい横たわってはいるので、幸い、肉体的な休息そのものはとれているようだった。  だが、紛うことなき「悪夢」に他ならないこの夢を見始めた当初は、とにかく心的疲労が凄まじかった。  なんとかして「僕」に勝つ方法はないかと、基本的には毎晩抵抗を試みてはいるが、どんなに抵抗してもまるで歯が立たず、殺されては朝を迎える、の繰り返しだ。  絶望感はもとより徒労感が増すばかりなので、無抵抗を試みたこともあったが、その場合「僕」は、ごく機械的な手つきで事を遂行するのみだった。  より強調される無慈悲さに別種の恐怖を覚えるや否や、あまりにあっけなく僕は殺され、次の瞬間には、もう朝が来るのだった。
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