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やや極論だが、いっそのこと寝なければ、夢の中で「僕」と対峙しなくて済むのかもしれないと思い立ったことがあった。
それを敢行すべく、一晩中読書に没頭したりして過ごしてみたこともあったが、次に眠りについたタイミングで、必ず夢の中に「僕」は現れた。
そして、「昨晩出来なかった分」とでも言うかのように、心なしか、よりいっそう強い力で僕の首を絞め上げた。
ある時など、アルバイト先に向かうバスの中でうっかりうたた寝した際の夢の中に「僕」が現れてしまい、たまったものじゃなかった。
初夏を思わせる強い日差しを窓ガラス越しに受けていたせいもあってか、汗びっしょりで目覚めた僕の四肢は、座席からずり落ちるのを本能的にこらえたというような奇怪な体勢で、かろうじてシートにへばりついていた。
左腕に巻いた包帯で、汗を拭う。
呆然としながら息を荒げる僕の姿は周囲の目にさぞかし滑稽に映っているだろう、という刺すような羞恥心が、生きている実感を与えてはくれたけど、生きた心地は、まるでしなかった。
徹夜などの無駄な抵抗はやめ、毎晩、規則正しくベッドに入り、毎晩、規則正しく殺され続けること。
心身のためには、それが最善だとわかった。
受け入れ難いが、どうしようもない。
苦痛ではないと言うと嘘になるが、あきらめるのが得意な僕は、この理不尽な出来事に、比較的すんなりと馴染めてしまったかもしれないという気にすらなっていた。
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