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翌朝目覚めた僕は、いつになく凪いだ心持ちでいた。
こんな夢を見るようになる前でも、こんなにすがすがしい気分で目が覚めたことはなかった。
いや、もっと昔には、あった気がする。
ずっと昔、まだ、やりたいことも不満も吐いて捨てるほどあった、子供のころに。
ふと、左手首が視界に入る。
真白い包帯。
僕はそれをぼんやりと見つめながら、思い出していた。
薄汚れたカーテン越しに淡い光が差し込むいつもの部屋、色あせた壁紙。
どこか遠くから聞こえてくる、近所の子供たちの遊ぶ声。
つられて想起する、友人たちの笑顔。
進展しない、解決しない、空回りのあれこれ。
着信履歴ゼロの携帯電話。
返事の来ないメール。
「君は必要ではありませんでした」ということを遠回しに伝える、不採用通知の書面。
僕を置いて、狂おしいまでに滞りなく回っているように見えた世界。
晴れ渡る青空。
何気なく視界に入ったカッター。
特にしたいこともなく、不満もない。
ああ、そうか。
僕は、あの時……。
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