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「うち聞きましたよ」
「何がー?」
日誌も書き終わって、帰る準備もばっちりで、部室に鍵をかけてた時に言われたから、うちの返事は上の空やった。
「タカ先輩のこと」
確認しようとしてドアノブ回したところに言われて、思わず力入って、頭ぶつけそうになった。
ちょちょ、ちょっと待ち!
誰やの、この子に言うたの!?
「誰に聞いたん!?」
「薫先輩ー。今日、お昼に会ったんですよ」
あー、そういえば薫は今日は昼練するって教室出てったな。
1年の教室は、音楽室のある2階やから、まあ当然っちゃ当然の偶然やんな。
というかそれ以前に、タカに会ったって話したの薫しかおらんな…。
「んで?んで?どうなったんですか?」
「どうもこうもないって…」
あーもう、恥ずかしい…。
悠は薫と一緒に、失恋して泣いてたうちを慰めてくれた。
いつもは妹みたいに可愛いんに、あの時はすごくしっかりした子に見えて、悠の胸で大泣きしてもうたこともあった。
中1の子に、中3が泣き付くてどうなん…。
我ながら恥ずかしいわ…。
「タカ先輩、どこの高校なんです?」
「薫から聞いとらんの?」
「練習前だったから急いでたみたいで。詳しいことは陽菜に聞けーって」
絶対めんどくさかっただけやな…。
「んでっ、んでっ!?タカ先輩、どこなんですの?」
「ちょ、ちょっと待ち!」
逃がさへんって言わんばかりにしがみついてくる悠を、どうにかはがす。
職員室の目の前ってこと、忘れとるね、この子……。
「鍵置いてくるから!それまで待ち!」
「んもー、さっきからお預けばっかりや!」
はよしてくださいね!っていう声を背にしながら、職員室の扉を叩いた。
あーもう、きっと帰り道、根掘り葉掘り聞かれるんや…。
ちょっと憂鬱になってたら、見慣れすぎた顔を見つけた。
「あ、陽菜」
「薫。部活どうしてん?」
今ごろは部室でサックス吹いとるはずの薫がそこにおった。
「や、今日は先生のせいで部活早く終わったんやけど、頼み込んで自主練してたん」
夏の大会に向けて、薫は今すっごい一生懸命や。
この子にとってサックスは、最大の自己表現やからね。
大好きやねん、音楽が。
「なら一緒に帰ろ。悠もおるで」
「本当?じゃ、鞄とってくるわ」
薫はそう言うと、失礼しましたーと頭を下げて出ていった。
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