序章

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遠くから合戦場の怒号が、この城まで届く。 「ここも落ちるのは時間の問題か・・・」 殿の言葉を耳にしながらも、思い返すのはあの人のこと。 「綾姫・・・そなたとの夫婦(めおと)としての時間はけして長くはなかったが、わしには、幸せな時間であった。」 優しく微笑む殿の言葉に、ただひたすら涙でしか答えられない。 私はこの人を夫として愛することができなかった。 私の心の中にはあの人しかいなかったから。 「わしは、ここに残るが、綾姫、お前は父君の元へのがれよ。」 「い、嫌でございますっ。」 再び、どこかへ道具として嫁に出されるくらいなら、まだ、私を愛してくれた殿とともに、ここで果ててしまったほうが、いくらかマシだ。
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