序章

3/4
前へ
/227ページ
次へ
悔しそうな顔した殿が、呼んだのは。 「左近、これを連れて落ち延びよ。」 まさか。 振り向いてそこにいたのは。 ずっと心の中で、慕い続けていたあの人。 「・・・殿っ!」 「さらばじゃ。」 そう言って、清々しい笑顔と共に、側に仕える男たちと、城の奥のほうへ入っていく。 「殿ぉぉぉっ!」 追いかけようとする私を、何も言わずに抱きしめる左近。 「ううううううっ。」 崩れ落ちる私の肩を優しく抱えて微かな声で、私を城から離れさせようとするけれど、なかなか身体を起こすことができずにいた。 突如、荒々しい破壊の音とともに、恐ろし気な怒号が近くに聴こえてきた。 「どこじゃぁぁぁっ!」 いつの間にか、敵方の兵どもが城内に上がり込んできていた。 声が段々と近づいてくる。 「さ、左近!私を、ここで殺して。」 必死に左近の腕にすがりつく。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

892人が本棚に入れています
本棚に追加