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炎に包まれながら男が言う。顔も体も髪も服も、どんどん焼け爛れていくのに涼しい声で告げる。
「こんな悪さ続けてると、俺みたいになっちまうぞ」
もう、人間とは認識できない火柱にそう言われ、俺達は一人残らずその場にへたり込んだ。
それからどれくらい経っただろうか。
公園にやって来た見回りの警官に俺達は補導…いいや、保護された。
その警官の話では、発見時、俺達は放心して地面に座り込み、声をかけられるまで何もない空間を指差していたという。そして声をかけた後も、『人が、火に…』と繰り返していたそうだ。
ちなみに、警官が周辺をし調べたが、そこには焼死体どころか花火の痕跡すらなかったそうだ。
この件以来、俺達は憑き物が落ちたように世間への反抗とかいうバカな真似をやめた。
そこからはすっかり心を入れ替え、真面目に暮らして高校進学、大学進学を果たし、そろそろ就職活動をという現在に至っている。
その数年間の間に知ったのだが、あの中年男性は、不良になりかけた思春期の子供達の前に現れる幽霊として結構有名らしい。
出現場所はまちまちだが、悪さをしていると現れて、その場に応じた死に様を見せるのだという。それに怖気づき、子供達は更生するとかいう話だ。
噂で聞いただけなら笑うだろう。でも、実際にこの目で見た以上、信じない訳にはいかない。
そして、感謝もしている。
あの日あの人に正してもらわなかったら、今の俺はきっとない。おそらくはもっと荒んだ生活を送っている筈だ。
だから、たとえ相手が幽霊でも感謝している。でも一つだけ。
いくら荒療治でも、さすがに焼死体は怖すぎた。
夜回りおじさん…完
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