9人が本棚に入れています
本棚に追加
その生活が三年続き、 IT 企業でアルバイトから正社員に採用された。なぜその企業を選んだのか?そんなものはなりゆきで僕は選んでいない。
その企業はいわゆるブラック企業で、徹夜や休日出勤もあり、労働基準法などどこ吹く風だ。しかし、その企業の成長は著しく、他の企業では真似できないあるアプリを先んじて開発した。それにより、会社は上場を果たし、今では世間の風当たりもあり、労基も結構守られている。給与やインセンティブも、相当だ。場所も六本木ヒルズ。
そのアプリを開発した人間の一人として、誇らしくはあるが、まだ、自分のカタチを見つけられずにいる。だから、次は自分が中心になり、文字どおり命を賭けて、カタチを作ろうと思う。そして、そのチャンスを会社は与えてくれた。このカタチが完成したら、自信を持って言える。あの頃、支えてくれた大人たちに。僕は自分自身の名前とカタチを言う事ができる。
僕は、このために生きたと。創り上げ世の中を変えたと。僕はココにいると、逃げずに言えると思う。だから、もう少しだけ人生が負けでもいい。勝てなくてもいい。
あと少し。あと少しだけ命が持てば、僕は僕自身に勝てるのだから。あの頃、僕を支えてくれた大人たちのように。それが叶ったら、母親に会いに行く。
言葉を掛ける。話す。それだけ。それだけで僕は選ぶ事ができる。
どう死ぬかを。どう生きるかを。あと一年。これが僕の余命。
だから、僕は、あの頃、支えてくれた母親になんの恩返しもできずにいる現実を受け止め、最後に生きた証を残して、母親に会い、また遠出しようと思う。
今度は、少し長い。そのため、母親の老後に必要な貯金を残していく。
結論。僕は貯金が無くなり、仕事も、命も無くなり、消える。
でも、僕の作品と名前は残る。
だからもう少しだけ、負けさせていて欲しい。
もう少しだけ。
最初のコメントを投稿しよう!