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バチっと音が付きそうな勢いで、弥王は目を開いた。
直ぐに起き上がれば、シーツの感触に目が覚めたのだと、理解する。
「今のは・・・・・・どっちの夢なんだ・・・・・・?」
呟いた弥王は立ち上がって、洗面所にある鏡の前に立つ。
鏡に映るのは当然、自分の仏頂面だ。
あの夢で会った少女は、目の色を除けば自分とほぼ瓜二つだった。
だが、と、弥王は考える。
三人兄弟の末っ子だった為、弥王には姉と兄は居れど、妹は居ない筈。
記憶の中の両親はとても律儀な為、腹違いや種違いは有り得ない。
そもそも、丁度十年前は──。
弥王はそこまで考えて、ある事に気が付く。
そう言えば、何で自分は彼女の夢に入り込めたのだろう。
弥王は、顔と名前さえ解れば、その者の夢に入り込むことができると言う能力を持っている。
その能力で、時には標的に悪夢を見せ続けて精神的な苦痛を与えた後に襲撃する、なんて方法を使う時がある。
その為、弥王は「悪夢の伯爵」と言う異名を持っているのだ。
極稀に、顔も名前も知らない他人の夢に入り込める時があるが、それは、ある条件が重なった時でないと不可能な為、殆ど出来ないに等しい。
弥王は、引っ掛かりを覚えながらも、いつもの様に部屋から出る支度をする。
とは言っても、今日は本業もバイトも非番の為、これからどうしようかと悩む。
相方である璃王は、昨夜から国外に出ている為、今日は一人だ。
公爵は、女王陛下に呼ばれて王宮に出掛けているし、部下は部下で暇潰しの相手にもならない。
──そうだ、久し振りに街に出掛けよう。
丁度、欲しい本が発売されているんだ。
弥王は、折角の休暇を満喫する事にした。
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