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「そんな所で座り込んで、どうしたんだ?」
茶色の長い髪を後ろに結っている、炎の様な紅い目が印象的な男性。
彼は、璃王が座っている手摺に歩み寄ると、璃王に声を掛けてきた。
──え、何で男に声を掛けられてんだ?
璃王はそんな事を考えて、思い出す。
──そう言えば今、女の姿だっけ。
鏡を見た自分は本当に女になっていて、ナルシストではないが、10人が10人を振り向かせる事が出来そうなくらいの美少女っぷりだと思う。
それもこれも、先祖からの隔世遺伝の所為だろうが。
「人に酔ってしまったから、風に当たっていた。
君こそ、“こんな所でどうしたんだ”い?」
璃王は、男性に聞き返す。
聞き返されるとは思っていなかった男性は、言葉に詰まる。
まさか、「見惚れている内に近付いてしまっていた」なんて、言える筈がない。
「もしかして、見惚れている内に近付いてしまった、とか?」
璃王の言葉に、男性は豆鉄砲を食らった鳩の様な、驚いた顔をした。
璃王の言った言葉は、正に自分が考えていた事だからだ。
璃王は、男性の反応に、「あっ、やってしまった」と口に手を当てる。
璃王は、無意識に相手の考えを読み取る厄介な能力を持っていた。
普段は意識的に制御しているので、相手の思考を読み取る事はしないが、たまに何も考えずに居ると、こうして、相手の思考を読み取ってしまうのだ。
誤魔化さないと──!
璃王は言った。
「冗談だよ。面白い顔」
クスッと口元に手を当てて微笑む、璃王。
男性は、その笑みが何故か懐かしく感じた。
いつか何処かで、同じ様な表情を見た事がある。
よく見れば、彼女は誰かに似ている気がする。
だが、それが誰なのか思い出せない。
何だ? この、言い様のない懐かしさは?
何故か感じる懐かしさに、男性は思わず微笑んだ。
「自覚はないが、よく言われる」
男性は微笑んで、璃王に手を差し出して言った。
「折角の夜会だ。 一曲踊らないか?」
「え・・・・・・あ・・・・・・」
璃王は、男性の微笑みに既視感を覚える。
自分を射抜く様な、綺麗な真っ赤な目。
恐らく、会った事があるのなら、忘れないだろう。
璃王は、何故か感じる懐かしさに頷いた。
「喜んで」
男性の手を取って、璃王は手摺から降りる。
──別に、断る理由がない訳じゃない。
ただ、暇なだけ。
(──そう、ただの暇潰しだ)
璃王は男性のステップに合わせて、踊り出す。
緩やかな夜風が二人を包む様に吹き流れた。
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