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一方その頃、弥王の方は、 グランツに人気のない燭台の明かりがぼうと灯っている部屋に通されていた。
こうもあっさりと寝室に通されるとは思っていなかった弥王は、ほくそ笑む。
ハニートラップという物は初めて使ったが、それにしては上出来だろう。
もし、姉貴が近くにいる物なら、感謝したい。
自分に姉貴がいてよかった──。
さて、部屋に入ったその次はどうしようか。
「ひとつ、聞きたい事があるのだけれど、良いかな?」
「えぇ、どう──!?」
グランツが弥王に声を掛けて、弥王が頷こうとしたその時、弥王の視界が反転した。
一瞬、何が起こったのか弥王は判断が遅れる。
あ──、ヤバイ。これは想定外だった。
まさか、初対面の女を押し倒すなんて思わないじゃん。
弥王は、ベッドの上に押し倒されたのだ。
目の前にはグランツの顔と、その背後に天井が映っている。
力になると敵わないよなぁ、これ。
弥王は、考えを巡らせる。
「君は、ファブレットの何だ?」
──あぁ、こいつは。
今のグランツの質問で、弥王は何となく、グランツが別の事件の犯人だという事を考えた。
変死事件とはまた別に、婦女子失踪事件が起こっていたのだ。
その調査も同時に依頼されていて、筋金入りの男嫌いで有名な女王陛下からは、「もし見つけたら、市警察なんぞに渡さずに死刑で良い。 女に危害加える様なクソは、ポリ公のマズ飯すら食う資格もない、殺れ」と殺し屋の目で命じられていた。
グランツがその婦女子失踪事件に関わっている事が何となく読めたのだ。
「それを訊いてどうするの?
彼に近いと知ったら、私を殺す?」
無表情に弥王はグランツに問う。
その表情を見て、グランツは背筋が凍るのを感じた。
──何だ、この感じは?
まるで、死宣告者と対峙している様な緊張感。
グレア・ファブレットと一緒に居た事を考えると裏警察?
もしかして、こいつは?
グランツの口から、言葉が溢れた。
「もしかして君は・・・・・・悪夢の伯爵・・・・・・!?」
「ふっは・・・・・・はは・・・・・・っ」
グランツの言葉に、弥王の口からは乾いた笑い声が漏れた。
そんな馬鹿な、と、グランツは零す。
「悪夢の伯爵は男だと聞いていた・・・・・・君は女だ・・・・・・ということは、悪夢の伯爵は女だったのか・・・・・・?」
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