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狼狽えて、グランツが弥王から手を離したその時に、弥王は渾身の力でグランツを蹴り飛ばした。
パチン、と弥王が指を鳴らすと、弥王の姿は女から男へ変わり、ドレスもシャツとズボンに変わる。
髪も元のストレートロングに変わった。
グランツが立ち上がらない内に弥王はグランツの左胸に、チェストに置いてあった果物ナイフを取り上げてそれを深々と突き刺す。
紅い鮮血が散って弥王の頬を濡らすと、弥王はそれを手の甲で拭い去った。
「・・・・・・冥土の土産に教えといてやるよ」
段々と冷たくなっていく息絶えた屍に、弥王は語り掛ける。
「呪幻術師と幻奏者は性転換術が使えるんだよ。
まぁ、オレが悪夢の伯爵だと気付いた事だけは認めてやらんでもない。
それと──」
ユリアの呪幻術師──通称、呪幻術師と呼ばれる者、それと、アウラの幻奏者、通称、幻奏者と呼ばれる者。
その者達は文字通り、呪術・幻術を黒魔術として扱う者と、音を奏でる事により幻術を扱う者の事で、彼らは俗に言う“裏の力”という物を持つ人間に分類される者。
そんな者達の中でも一際、その力が強いのが弥王と璃王だ。
弥王は、オイルをポケットから取り出すと、グランツの亡骸を中心に部屋にオイルを撒く。
ふと、グランツが生前に訊いてきた質問を思い出した。
『君は、ファブレットの何だ?』
「オレは──」
弥王は 先のグレアの言葉を思い出す。
『彼女は、私の恋人だよ』
別に気にしている訳ではない。
解っている。 自分と彼との間にそんな関係は有り得ない。
今までも、そして、これからも。
弥王は、カンテラを床に落とした。
すると、オイルが染み付いたカーペットや亡骸に火が燃え移り、部屋を紅蓮に染める。
弥王は、グレアの言葉を掻き消すように言った。
「──ファブレットの部下だ」
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