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「・・・・・・逃げた方がいいな・・・・・・」
「え・・・・・・?」
バルコニーに居た璃王はポツリと呟いた。
隣にいた男性は、璃王の呟きが聞こえていた様で、璃王が何を言ったのかを聞き返す。
璃王は、鼻を突く様なオイルの臭いを感じ取ったのだ。
──どうやら、グランツは弥王が殺った様だ。
弥王は大抵、敵の陣地に入っていると、その根城ごと燃やし尽くす変な癖がある。
それは、標的を虫の息すらも止める為に行うのだ。
どうも、標的は弥王を怒らせたらしい。
──マズイな。 自分一人なら、今この場で姿を戻して飛び降りる事が出来るが、一般人である彼の前でそれは流石にできない。
と言うのも、裏警察では──否、璃王達の居る裏の世界では、基本的に表の人間に裏の力を見せ付けない。 という、「アウラ条約」と呼ばれる暗黙のルールがあるのだ。
裏警察は、それを特に強く取り締まっている。
なので、それを破ったらどんなエグい刑を言い渡されるか・・・・・・。
それだけは勘弁したいところだ。
そんな事を考えていると、他の招待客が異変に気付いたらしく、会場内が騒然とどよめいた。
そんな中、一人のホールスタッフが招待客に注意と避難を促す。
「二階から火の手が上がっています!
皆さん、慌てずスタッフの誘導に従って避難してください!」
「逃げるぞ」
「あ・・・・・・あぁ」
男性は、スタッフの話を聞くが早いか、璃王の手を引いて足早にバルコニーから会場へ入ると、玄関ホールを目指した。
弥王の姿が見えなかった事を気にしていた為か、璃王は反応が少し遅れて、半ば男性に引きずられる様に小走りで走る。
だが、履いた事のないヒールに動きにくいドレスで着飾っている為、璃王は上手く走れずに足を挫いた。
「うわっ!!」
ガクン、と、璃王は体勢が崩れ、白い床に倒れる。
その拍子に男性が引いていた手が離れ、男性は振り返った。
「大丈夫か!?」
男性の言葉に璃王は起き上がりながら、冷静に頷いた。
足首に痛みが走る。
こんなにパニックになっている状態なら、呪幻術でどうにか出来そうだ。
しかし、それを使うにはこの男が邪魔だ。
璃王は男性を見上げて、言った。
「足を挫いただけ。
足手纏いは御免だ。 だから──」
男性は璃王をひょいと抱き上げる。
突然に抱え上げられ、璃王は驚きに目を見開いた。
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