第3楽章 標的─ターゲット─

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「・・・・・・逃げた方がいいな・・・・・・」 「え・・・・・・?」 バルコニーに居た璃王はポツリと呟いた。 隣にいた男性は、璃王の呟きが聞こえていた様で、璃王が何を言ったのかを聞き返す。 璃王は、鼻を突く様なオイルの臭いを感じ取ったのだ。 ──どうやら、グランツは弥王が殺った様だ。 弥王は大抵、敵の陣地に入っていると、その根城ごと燃やし尽くす変な癖がある。 それは、標的を虫の息すらも止める為に行うのだ。 どうも、標的は弥王を怒らせたらしい。 ──マズイな。 自分一人なら、今この場で姿を戻して飛び降りる事が出来るが、一般人である彼の前でそれは流石にできない。 と言うのも、裏警察(シークレット・ヤード)では──否、璃王達の居る裏の世界では、基本的に表の人間に裏の力を見せ付けない。 という、「アウラ条約」と呼ばれる暗黙のルールがあるのだ。 裏警察は、それを特に強く取り締まっている。 なので、それを破ったらどんなエグい刑を言い渡されるか・・・・・・。 それだけは勘弁したいところだ。 そんな事を考えていると、他の招待客が異変に気付いたらしく、会場内が騒然とどよめいた。 そんな中、一人のホールスタッフが招待客に注意と避難を促す。 「二階から火の手が上がっています! 皆さん、慌てずスタッフの誘導に従って避難してください!」 「逃げるぞ」 「あ・・・・・・あぁ」 男性は、スタッフの話を聞くが早いか、璃王の手を引いて足早にバルコニーから会場へ入ると、玄関ホールを目指した。 弥王の姿が見えなかった事を気にしていた為か、璃王は反応が少し遅れて、半ば男性に引きずられる様に小走りで走る。 だが、履いた事のないヒールに動きにくいドレスで着飾っている為、璃王は上手く走れずに足を挫いた。 「うわっ!!」 ガクン、と、璃王は体勢が崩れ、白い床に倒れる。 その拍子に男性が引いていた手が離れ、男性は振り返った。 「大丈夫か!?」 男性の言葉に璃王は起き上がりながら、冷静に頷いた。 足首に痛みが走る。 こんなにパニックになっている状態なら、呪幻術でどうにか出来そうだ。 しかし、それを使うにはこの男が邪魔だ。 璃王は男性を見上げて、言った。 「足を挫いただけ。 足手纏いは御免だ。 だから──」 男性は璃王をひょいと抱き上げる。 突然に抱え上げられ、璃王は驚きに目を見開いた。image=500203191.jpg
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