第3楽章 標的─ターゲット─

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パァン、と、乾いた音が夜空に響く。 いつもならば、気にせずにグレアの手を借りている所だが、今は何故かグレアに触られるのが嫌だと思ったのだ。 そんな璃王の心境の変化に気付かず、グレアはただ、払われた手を引く。 「神谷?」 「あ・・・・・・と・・・・・・大丈夫、だ、これくらい・・・・・・」 グレアに声を掛けられ、璃王は我に返る。 無理に立ち上がれば、捻った右足に上手く力が入らずに、璃王は(くずお)れた。 「っー!」 「まったく、仕方がないな、璃王は・・・・・・」 見兼ねた弥王が、璃王をひょい、と抱き上げる。 璃王の心境の変化に弥王は気付いたのだ。 多分、さっき何かあったのだろう。 今の璃王はまるで──。 それ以上、弥王は考えるのをやめた。 根拠もない変な推測をするのは悪趣味だ。 ただでさえも璃王に「キング・オブ・悪趣味」と言われているのに、これ以上言われたら立ち直れない。 「さて、グランツ殺して屋敷も大炎上させて任務も終わったことだし、帰るとするか。 さっさと寝て、今日の事は忘れたいし」 弥王の言葉に、璃王は弥王が任務中にキレた事が何となく解った。 弥王が屋敷を燃やすのは、大抵は逆鱗に触れた標的を跡形もなく灰にしたい時だ。 それほどの事をグランツは弥王にしたのか・・・・・・と、璃王は思う。 「それにしては、中々良い仕事をしていたと思うのだが?」 弥王の愚痴を拾ったグレアが弥王を振り返り、言う。 どうやら、弥王がハニートラップを使っていた所をばっちり見たらしい。 弥王はグレアに詰め寄る。 「何処から見ていたっ!?」 「“美しいだなんて、そんな事はないですわ。想像していたよりも、貴方の方がずっと素敵でしてよ?”だったか? あーあと、“素敵な貴方に一目惚れ”・・・・・・とか随分と大胆な事も言っていたな? ハニートラップなんか、何処で覚えたんだ?」 「全部じゃないか! 今すぐ忘れてもらおうか、公爵っ!」 グレアが激白すると、弥王は顔を真っ赤にして声を荒げる。 グレアの話に璃王は衝撃を受けた。 ──弥王がハニトラを使った、だと・・・・・・!? 男相手に・・・・・・!? 璃王にとってそれは、ある日突然、超生物が月を爆破した犯人だと告白し、自分の担任になったと告げられ、来年には地球も爆破すると言われたよりも衝撃的な事だった。
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