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「人聞きの悪い事言わないでくれる?
グレアの部屋の窓が無防備に開けっぱだったから、そこから入ったに決まってるでしょ」
さも当然だと言う様にしれっと答える、グレイ。
彼女はどういう訳か、エントランスから入ろうとせず、ある日は窓を突き破り、ある日は屋根を破壊して本部に入ってくる。
被害総額は年間でも万桁を越え、その気になればオーバーテクノロジーの精密機械が幾つか買えそうな程である。
修繕費は勿論、裏警察(シークレット・ヤード)の運営予算から捻出され、マイナス分はグレアの給料から差っ引かれている。
「さも『何言ってんの? 当たり前じゃん』とでも言う様に言うなっ!」
「えー、聞こえなーい」
しれっと器物破損を自供したグレイに、グレアは怒鳴る。
しかし、グレイにはそれが効かないらしく、聞こえない振りをした。
腸が煮え切っているグレアの肩を、不意に誰かが叩く。
振り返ってみれば、弥王の顔が目の前にあった。
「まぁまぁ、落ち着きなよ、公爵。
あんまり怒鳴ってると、血管切れるよ」
弥王は苦笑を浮かべて、グレアを見上げる。
「それに、女王陛下だって、悪気があったわけじゃなくて、きっと、ここに引き篭もって中々王宮に帰ってこない公爵に構って欲しいんじゃないのかと、オレは思うが?
オレも、よく同じ様な事を兄貴にしていたし」
弥王には歳の離れた兄が居たのだが、兄がブラコンすぎて鬱陶しかった為に、弥王は兄に「幻奏術の練習台」と称して、兄で人間ダーツをしてみたり、「トマト大会」と言って、兄にトマトを投げたりしていた。
それと同じ事だと、弥王はグレアに言う。
グレアは、弥王から目を逸らして、報告書に目を通しながら言った。
「どうだかな。
悪意のない奴が毎回、窓から侵入してくるとは思えないのだが」
まただ──。
グレアは、横目で弥王をチラリと見る。
その目の前には、自分に王宮に一度でも顔を出す様に進言している弥王の姿がある。
夜会以来、どうも自分は神南を無意識に意識する様になった気がする、とグレアは思った。
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