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目の前にあるウーロン茶のグラスに浮かんだ氷が、バランスを崩して、ことり、と音を立てる。
それが合図だったように、雪雄が閉じていた双眸をうっすらと開いた。
「五年前の夏……、日暮れ前だ。妻と娘は、夕食の買い出しに出掛けていたんだ。私は、カレーライスが好物で、妻は、私が疲れている様子だと、決まって夕食にカレーライスを用意してくれた。料理が上手で、私の事を本当に理解してくれていて。その日も、カレーライスを作ってくれようとしたらしい」
雪雄の組み合わせている手に、僕はゆっくり視線をうつした。
若く見える外見に比べて、皺の多い手だった。その指先まで赤く、手の甲の血管が浮き出て、目立っている。
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