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「結婚して、子供に恵まれて、幸せな思い出が増えていくのと同時に、私には『怖い』ことも生まれたんだ。もし、それが本当に起きてしまったら、と考えるたびに振り払いたくなるような。少しでも考えてしまった自分自身を、罵りたくなる……」
僕らの間に沈黙が静かに降り立って、雪雄が話し始めるのを待つ。
「妻と娘がこの世からいなくなってしまうことが、何よりも怖かった。私が、先にこの世から居なくなった方が、ずっと良かったんだ」
その言葉を聞くと同時に、僕の脳裏に百瀬彩乃の姿が浮かんだ。いつも繋いでいる掌の、小さくて柔らかい感触……、安心できる温もりを思い出す。
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