アヴェ・マリア

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それから三月ほど過ぎたある日の朝。 すっかり日に焼けて逞しくなった青年は、数週間ぶりに家に向かって歩いていました。 ここのところ、仕事が忙しくて家に帰れなかったのです。 ところが、マリアの家の前まで来た時、隣の家の夫婦が、道で声を上げて泣いています。 「どうしたのですか?」 青年が不思議そうに尋ねると、その夫婦は涙を流しながら言いました。 「マリアが……死んでしまったよ……」 それを聞いた瞬間。 青年の握られていた手のひらが、ほどけて。 道ばたに、一個の銀色の指輪が、カランと音を立てて、落ちたのでした……。 静かに話を聞く幼い兄弟を見つめながら、神父はゆっくりと言った。 「その青年が本当に欲しかったもの。それは……『愛』でした。彼は気付かないうちに、マリアを愛していたのです」 神父は深い眼差しで、少年達を見つめた。
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