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吾郎も押し入れに隠れようとしてつまずいてしまった。
吾郎は情けなくベソをかいた。
「待ってよぅ。シュウちゃぁん。由依埜ぅ。」
説明しよう!何ヶ月も家賃を納めていない三上家にとってチャイム是家賃滞納の催促を表すのである。
「早く!吾郎ちゃん!見つかっちゃうよぅ」
「お兄ちゃん早く!」
ピンポーンピンポーン。
その時三上家の飼い猫オーガスタがそのぬいぐるみのような白い巨体をひるがえして吾郎のアタマを踏んだ。
「ぐぇっ」
「何やってるのオーガスタ!あんたは賢い子のはずでしょ!」
由依埜が叱咤する。
「にゃーん……」
ピンポーン、ピンポーン。
「違う……」
「えっ?」
「違う!由依埜!オーガスタドアを開けろって言ってる!」
「ええっ」
説明しよう!三上家の飼い猫オーガスタの言葉を吾郎だけが理解可能なのだ!
押し入れから由依埜と周二まで出てきた。
「吾郎ちゃん。それほんとう?」
「にゃーん…」
オーガスタは白くて触ると気持ちよさそうなしっぽを振って吾郎たちを見ている。
吾郎が立ちあがる。
「大丈夫だ。オーガスタが開けても大丈夫って言ってる」
ガチャ。
吾郎がドアを開けた。
「すいません……。あの、こんばんは」
ひゅう、と夜風が開いたドアのすき間から三上家の部屋に入り込んできた。
それは。
そこに立っているのは、女、だった。
二十代半ばくらいの白いスーツを着た女が手に持っているのは菓子折だろうか。
ひどく痩せたでもどこか艶と華がある髪の長い女が立っている。
「あの……。こんばんは。」
女は象牙色の左耳のピアスを触りながら言った。
「わたし新しくこのアパートの管理人を務めます此花佐久夜(このはな・さくや)と申します。以前このアパートの管理人だった此花ウメの孫です。ウメの体調がよくないので代わりに管理人を務める為に長崎から引っ越してきました」
吾郎は赤面した。恋である。
「よよよろしくお願いしますっ。あのおおおいら三上吾郎って言いますっ。ろろ浪人生ですっ」
「そっちは妹の由依埜ちゃん?」
由依埜はおずおずと顔をあげた。
「三上由依埜です。高校一年生です。ラーメン屋でアルバイトして生計を支えてます」
周二も自己紹介する。
「ぼぼくは田代周二ってゆいます。趣味は読書で好きな作家はサマセット・モームです。吾郎ちゃんと同じ浪人生です」
「にゃーん」
「あっ。こっちは猫のオーガスタです。シーチキンが大好物です。よろしくお願いします」
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