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柊翔は難しそうな顔をして、俺の顔を見続ける。
「と、とりあえずは、卒業することだけ考えます。それと・・・バイト始めようかなって・・・」
「生活費はなんとかしてもらえるだろ。あんだけ言えば。」
「でも・・・」
「たぶん、宇野さんが、なんとかしてくれるだろうし。」
「・・・俺、ほんと、自分じゃ何もできないんですね・・・」
俺が、まだ子供だから。
自分の力で、一人で、生きていくこともできない。
「・・・大人になったら、返せばいいさ。」
「・・・・」
「だから、返せるような大人にならないとな。」
俺の頭を撫でると、優しくキスをする。
見つめる瞳の中には、また泣きそうになっている俺が映る。
柊翔に抱きしめられながら、俺は母のことを思い出す。
病院で入院してた時、一人で苦しい時間を過ごした時、母はどんなにあの男を想っていたことだろう。
寂しい時に、誰かがそばにいてくれる、それだけでも安心できるのに。
あの男を、どんなに恋しく思っていただろう。
母が亡くなったのは、病気のせいだけではなく、恋しくて、恋しくて、その想いが魂すらも削ってしまったんじゃないか、そんな気がしてならなかった。
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