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「……」
何も答えないでいると、しばらくして宇野さんは、運転手に小さな声で行き先を告げた。
もう、どうでもいい気分になっていた。
本当なら。
柊翔にそばにいて欲しい。
柊翔に抱きしめて欲しい。
柊翔に慰めて欲しい。
……そんな思いを、俺は胸の中に閉じ込めた。
こんなぐちゃぐちゃな俺を、柊翔には知って欲しくなかった。
宇野さんは、何も言わずに、ずっと俺の隣に座っていた。
空はあんなに青くて、綺麗に澄んでいるのに、今の俺は、まっ黒な思いでいっぱいになってしまってる。
俺は、変わっていく景色を、ただ見つめるしかなかった。
そして、俺は、あの家に帰ることはなかった。
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