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雨がしとしと降っていた。
夏の初めの長雨は、気分が滅入ってくる。
「しっかし、よく降るなぁ。お前も、そう思うだろ?」
聞かれて私は、『そうね。』って、あしらうように答えた。
「…お前は、あんまり気になんないのか。まあ、この部屋の中は、快適だからな。」
そんなことはないのよ。雨がずっと降ってたら、外へは、遊びに行けないもの。たまに、つまらないなって思うのよ。
それに、こんな日に外へでたら、体が濡れるじゃない。そんなのは、嫌だし…。
「雨の日は、雨の日の楽しみかたってのがあるんだよ。お前も、付き合え。」
そう言って彼は、お酒と適当に皿に乗せたツマミを手に、ソファにドンと座る。
「ほら、ここへおいで。」
ソファのいつもの場所を手のひらで、ポンポンっとするから、私は、隣にちょこんと座るの。
彼は、お気に入りの映画のDVDを再生する。
本当に、この映画好きなのね。一緒に見るのは、何回目かしら?
…何か思い出でもあるのかなぁ。
私が、そんなことを考えていると、見透かしたように話を始めた。
「この映画、俺が、自分で稼いだ金で、初めて見たやつなんだ。
主人公、格好いいんだよなぁ。俺も、こんな風になりたいって、何回思ったか…。
でも、俺は、こいつみたいには、一度もなれてない。俺の物語は、いつも最後が格好悪いんだ。」
映画を見終わる頃には、お酒の缶が、2つも3つも空いていて、山盛りしていたツマミも、ほとんど残ってなかった。
「…お前は、俺の側に、いつでもいてくれるんだな。文句も言わずに。」
今日の彼は、なんだか、いつもと違って、寂しそうな顔をしていた。
すり寄って行った私に、彼は、何もなかったかのように、いつものように、優しく頭を撫でてくれた。
私はね、あなたが、寂しいのなら、慰めてあげる。必要だって思ってくれるなら、いつまでだって、側にいてあげる。
あなたの笑顔が、好きだから。笑ってくれるなら、いつまでも…。
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