小さな恋の物語

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秋がやって来た…。 先週末、彼の元に一通の手紙が、送られてきた。 その手紙を読むなり、彼は、静かに泣き始めた。 私以外誰もいないんだから、大声で泣けばいいのに、彼は、そうしなかった。 何かを耐えてるような、そんな顔で、必死に笑おうとする。見ていて、辛い…。 ああ、こんな顔は、彼に初めて会った、あのX'masの夜以来だ。 あの日から、彼は、泣くことなんてなかったのに…。 あの手紙には、何が書いてあったのだろう? 読むことの叶わない私には、中身を知ることも、彼を慰めることも出来ない。 ベランダに、風に煽られて飛んできた紅い葉っぱが、ひらひらと舞い降りた…。 『泣かないで…。』 私の呟きが聞こえたのだろうか、彼は、私を抱き寄せて、嗚咽を堪えながら、言ったの。 「…わかってたのにな。…あいつとは、もう一緒には、進めないんだって。…諦めてたはずなのに。…納得出来たはずだったのに。」 その後、彼は、堪えていた気持ちの堰が切れてしまったのか、涙を流して大声で泣いていたの。 私は、彼の腕の中で、何度も何度も、呟いていた。 『私が、“あいつ”だったらよかったのに。私なら、あなたを、幸せにしてあげられたのに。』 彼のもう叶わない想いと、私の届かない想いが、窓の外の紅い葉っぱのように、ひらひらと舞っていた。
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