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「繭子さんってさ、やっぱり本が好きだから国語の教師になったの?」
パラパラと捲りながら、そう聞かれる。
「うん。多分……」
「何その曖昧な返答」
「で、でも、本は好き」
一人で集中出来るし、自分では経験出来ないような沢山の物語の中に入れるから。
「俺はまともに読んだことないなー…俳優業をやっていくなら触れておくべきなんだろうけど」
「好きな物語とか……ないの?」
「特にないよ」
「小説とかじゃなくても、例えば昔、お母さんが読んでくれた絵本とか―…」
「―…ないよ」
「私ね、今でも母が読んでくれていた絵本ってよく覚えているの。優しい声で眠る前に読み聞かせをしてもらうと途中で寝てしまってね。悠馬はそういう思い出って―…」
「だから、ないって」
悠馬の声が強く冷たくなったから、驚いた。
「ご、ごめんなさい……」
一方的に私がこんな話をし始めたから……
悠馬にとってはどうでもいい話なのに。
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