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「どうして、ここに……」
茶々丸をなだめながら、先輩が体を起こす。
「三時に会う約束だから。ちょっと早く着いちゃったけど。メールで仕事依頼した橋本って、俺」
「どうして……」
「秋野に頼みたいって思ったから。俺、今の秋野が撮った写真、好きだな。製本も丁寧だし。だから俺にも、メモリアルブック作ってくれないかな」
頭が混乱していた。
何を話したらいいかわからない上に、ほめられてますます地に足がつかない。
先輩は茶々丸をあやしながら、昔と変わらないくしゃっとした笑顔を見せていた。
「テ……テーマは、どのような……?」
「俺と秋野の再会。そういうのがいいな。その先を、ずっとずっと撮っていきたい」
ふと、先輩の顔から笑みが消えた。
「俺、秋野とのことでずっと後悔してたことがあって……。一つや二つじゃないんだけど」
私も――
「それをずっとやり直したいって思ってて。そしたら俺のお客さんがたまたまこの店のフリーペーパー落として、それでまず茶々丸を見つけた。そして、――秋野を見つけた」
私を、探してくれたの……?
先輩は香織の頬にそっと触れ、
「やっと、見つけた」
くしゃっと笑った。
私もやっと、先輩に会えた……!
香織の目頭が熱くなって、涙がめいっぱいたまってきた。
茶々丸が心配そうに二人の顔を見る。
「俺、やり直してもいいかな。――秋野と一緒に」
私の方こそ……っ。
「この話、受けてくれる? 秋野」
香織はたまらず涙をあふれさせ、
「はい……」
茶々丸に抱きついた。
「茶々丸もまた一緒に遊ぼうな」
先輩が言うと、茶々丸はにへーっと目を細めて舌を出し、満面の笑みを浮かべた。
「お二人さーん」
一部始終を観覧していたらしいユカが、店から顔を出した。
「あとは中で、ごゆっくりどうぞ」
ユカに見られていた恥ずかしさで、二人顔を見合わせて笑う。
――こんなふうに、また笑いあえてよかった。
この葉山の海で、私たちはもう一度やり直そう。
自分の気持ちを間違えないように、今度こそ。
そして一緒の写真を撮っていこう。
来年も、再来年も、十年後も、その先もずっと。
この、葉山の海で。
fin.
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