葉山の海でもう一度

11/11
前へ
/11ページ
次へ
「どうして、ここに……」 茶々丸をなだめながら、先輩が体を起こす。 「三時に会う約束だから。ちょっと早く着いちゃったけど。メールで仕事依頼した橋本って、俺」 「どうして……」 「秋野に頼みたいって思ったから。俺、今の秋野が撮った写真、好きだな。製本も丁寧だし。だから俺にも、メモリアルブック作ってくれないかな」 頭が混乱していた。 何を話したらいいかわからない上に、ほめられてますます地に足がつかない。 先輩は茶々丸をあやしながら、昔と変わらないくしゃっとした笑顔を見せていた。 「テ……テーマは、どのような……?」 「俺と秋野の再会。そういうのがいいな。その先を、ずっとずっと撮っていきたい」 ふと、先輩の顔から笑みが消えた。 「俺、秋野とのことでずっと後悔してたことがあって……。一つや二つじゃないんだけど」 私も―― 「それをずっとやり直したいって思ってて。そしたら俺のお客さんがたまたまこの店のフリーペーパー落として、それでまず茶々丸を見つけた。そして、――秋野を見つけた」 私を、探してくれたの……? 先輩は香織の頬にそっと触れ、 「やっと、見つけた」 くしゃっと笑った。 私もやっと、先輩に会えた……! 香織の目頭が熱くなって、涙がめいっぱいたまってきた。 茶々丸が心配そうに二人の顔を見る。 「俺、やり直してもいいかな。――秋野と一緒に」 私の方こそ……っ。 「この話、受けてくれる? 秋野」 香織はたまらず涙をあふれさせ、 「はい……」 茶々丸に抱きついた。 「茶々丸もまた一緒に遊ぼうな」 先輩が言うと、茶々丸はにへーっと目を細めて舌を出し、満面の笑みを浮かべた。 「お二人さーん」 一部始終を観覧していたらしいユカが、店から顔を出した。 「あとは中で、ごゆっくりどうぞ」 ユカに見られていた恥ずかしさで、二人顔を見合わせて笑う。 ――こんなふうに、また笑いあえてよかった。 この葉山の海で、私たちはもう一度やり直そう。 自分の気持ちを間違えないように、今度こそ。 そして一緒の写真を撮っていこう。 来年も、再来年も、十年後も、その先もずっと。 この、葉山の海で。 fin.
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加