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翌日は仕事を早めに切り上げて、二人で犬用のゲージやらトイレ用品やらを買い込んだ。
名前は二人で散々考えて、「茶々丸」と付けた。
「もしもし、秋野起きてた? 今から茶々丸連れて公園に行かないか?」
休みの日、先輩と会う日が増えた。
茶々丸も先輩に懐いていた。
「茶々丸、この前よりデカくなったなあ。脚太いから大型犬かもな」
「獣医さんにはゴールデンレトリバーだろうって言われました」
「それじゃ間違いなくデカくなるなあ」
仕事でもプライベートでも、先輩とはいいパートナーとして、充実した日々を送っていたと思う。
少なくとも私は。
「秋野、俺……、会社辞めることにした」
プロジェクトが完了したと同時に、先輩が言った。独立するのだという。
「秋野、一緒に来ないか?」
この時、私を誘ってくれたという喜びは一切なかった。
私の心にあったのは――
「どうして?」
急激に、心と体が凍りついていった。
「あんなに私に仕事教えてくれたのに。プロジェクトも毎日一緒に頑張ったのに。大変だったけど、先輩も楽しんで取り組んでたんだと思ってたのに……」
また私の独りよがりだったのだろうか。
「いつから、辞めること考えてたんですか? 先輩、私を……だましてたんですね」
先輩はずっと、私を裏切っていたんだ。
一緒に仕事しながら、私を励ましながら、笑顔を見せながら、その裏で先輩は、ここから立ち去ることを考えていたんだ。
頭に血が上り、そして失望した。
その後先輩は、私には何も言わず会社を去った。
先輩がいなくなってから、私の生活はガタガタに崩れた。
まず仕事を楽しめなくなった。
最終的にはクライアントの言いなりでものを作ることに、疑問と虚しさを感じていた。
いや、薄々わかっていたのに、先輩といる楽しさの方が勝って、気付かないふりをしていたのだ私は。
――先輩が会社を辞めたのはきっと、虚しさに気付いていたから。
先輩がいなくなったことで、自分のやりたいことと違うという気持ちが、鮮明に浮き上がってしまった。
それから、茶々丸が大きくなった。
大型犬の成長は早い。
みるみる大きくなり、大家にも見つかってしまった。
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