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「茶々……、どうしよっか……」
狭く四角い空間で、茶々丸の薄茶色の毛をなでる。
私が落ち込んでいる時、茶々丸はそれを敏感に察する。
いつもは舌を出して全力で甘えてくるのに、今はシッポを垂らして、口を閉じて鼻を近付けるだけ。
大きくなったからって茶々丸を手放すのは、自分の心を捨てるのと同じ気がした。
どんなに心がすさんだ時でも、茶々丸の顔を見ると泣けてくるほど心をほぐされた。
飼えないアパートなのに拾ってきた自分が悪い。
――いや、わかっていたのだ。
この子を拾ったあの時から、いずれここに住めなくなることは頭のどこかでわかっていた。
こんなことの繰り返し。
仕事のことも、先輩のことも。
「成長しないなあ、私……」
先輩を責める資格なんて、なかったのに。
フタをした感情が、今はもう大きく膨らみすぎて抑えきれない。
「茶々、会社辞めて引っ越そうか」
茶々丸が、やり直すきっかけをくれた。
薄く笑うと、茶々丸は体をすり寄せて、ぬれた鼻で突いてきた。
「大丈夫。茶々も一緒だよ」
茶々丸の大きな体を強く抱きしめる。
「先輩に会いたいね」
その気持ちに気付くのは、いつもあとになってからだ。
パソコンを立ち上げる。
インターネットの検索画面に、先輩の名前をそっと打ち込む。
SNSは何もやっていないはずなのに、先輩の情報は意外とすぐに見つかった。
地元に密着した写真館を経営していて、七五三や学校行事の写真を撮りながら、大きな写真コンクールで大賞も取っていた。
――だから検索にヒットしたわけか。
「すごいなぁ、先輩。すごいよ本当に……」
目頭が熱くなる。
画面が涙で歪む。
うまくいってない自分との違いを、思い知らされる――
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