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お手製のフリーペーパーは、なかなかの評判だった。
写真がほめられ、店のこと、メニューのことのちょっとした読み物も話の種になった。
写真集も、無料で置いていたので気軽に手に取ってもらえた。
そうやってこぢんまりと、でも満ち足りた日々を積み重ねて、五年が経った今年。
ユカさんの誕生日に、メモリアルブックを作って贈った。
「心ばかりの品ですけど受け取ってください。誕生日プレゼントです」
きちんと糊で背がためをした、少し厚めの冊子。
大小様々な写真を収めてある。
晴天を背景にした『カフェ・ユッカ』、朝日が差し込んだ店内の様子、ユカさんの豪快な笑顔、ユカさんと私と茶々丸の集合写真――
「すごいステキじゃない! ちょっと感動しちゃう。でもやだーん、そんな祝うような年じゃないのにーっ」
照れ笑いするユカさんに、私は首を横に振って微笑んだ。
「葉山に来た私と茶々を、あたたかく受け入れて面倒見てくれて、本当に感謝しています。だからユカさんと出会ってから今までのことを何か形にしたいと思って。私の自己満足なんですけど……」
今度は私が照れ笑いする。
「お誕生日おめでとうございます。ユカさんと出会えて、本当に嬉しいです」
「あんたって子はもう……っ。やだーん、私生まれてきてよかったーっ」
ユカさんは泣き顔と笑顔がまざった顔をして、プレゼントを受け取ってくれた。
*
すべてが上手くいっていた。
生活も、仕事も、満ち足りていた。
そこへこのメールである。
『突然のメール失礼致します。秋野香織様の心あたたまる作品を拝見させていただきました。私事ではありますが、メモリアルブックを作りたく、ぜひ秋野様に制作をお願いしたいとご連絡致しました――』
シナモンロールの匂いが漂う、開店前の静かな時間。
香織はケータイ画面に映しだされた、届いたばかりのメールの文面に顔をほころばせた。
「おはよう香織ちゃん」
気配に気付いたのか、調理場からユカが顔を出した。
「おはようございます。ユカさん、これ見てください」
はやる気持ちを抑えてユカにメールを見せる。
「へーっ、すごいじゃない!」
二人ではしゃぐ声が朝の店内に弾んだ。
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