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「メモリアルブックか……。もしかして昨日来た人かな。私、香織ちゃんからもらったメモリアルブックをね、昨日来たお客さんに見せたのよ。三十代くらいの男の人」
「え……っ、やだ、恥ずかしい」
「ごめんねー。でもその人、香織ちゃんの写真集すっごく気に入ってたみたいなのよ。穏やかな顔して手に取っててさ。いい人そうだったから、話の流れで見せちゃった」
「……何か言ってました?」
いつもの写真集は大勢に見られることを前提にしているが、そのメモリアルブックはユカ個人に贈ったものだから、他の人の目にふれたとなると少々緊張する。
「『人柄がにじみ出ますね』って微笑んでたよ」
そうですか、とひとまずホッと胸をなでおろす。
「それで気に入って、香織ちゃんに依頼メールしたんだろうね。……あれ、でも何でアドレス知ってんだろ。私教えてないよ?」
ユカが慌てて両手を振る。
「多分、奥付を見たんだと思います」
奥付? と首をかしげるユカに、写真集の最後のページを見せる。
「奥付っていうのは、発行日とか発行元とかを記したものです。店のフリペには店の連絡先入れてますけど、私個人の作品には、私の名前とメールアドレス入れてるので」
ああ、とユカが納得してうなずいた。
「本業じゃないって言ったらびっくりしてたよ。もしかしてその人、香織ちゃんのパトロンになってくれんじゃない?」
「またユカさんは」
二人で笑いながら、開店準備にかかる。
「あ、そういえばその人ねえ」
ユカが天井を見上げて記憶を探る。
「フリペ片手に店に来たの。でね、『これに載ってる茶々丸クンは、店の犬ですか?』って」
どうやら茶々丸目当てらしい。
そういう犬好きのお客も時々来店する。
「ちょうど散歩でいなかった時なのよねー」
香織はいつも昼休みを利用して、茶々丸と海まで散歩に出ていた。
「犬好きに悪い人はいないだろうし、香織ちゃんの感性に共感してくれた人なんだから、いい出会いになるわよ、きっと」
「そうですね」
香織の顔がほころぶ。
「あ、よかったら打ち合わせに店使ってー」
調理場に去っていくユカの背中に
「ありがとうございますーっ」
と明るい声で礼を言った。
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