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俺は二本のズッキーニを胸に抱きしめて、路地の隅にうずくまって全力で泣いた。
人生で最大の悲しみだった。
寸止めなんて酷すぎる。俺のこの興奮と胸のトキメキを返してくれ。
この世界で魔法を使ってみたかった。
やっとおっちゃんを言い負かして制限付き使用許可も得られたというのに。
それなのにこんな仕打ち、有り得ないよ。
酷すぎる。
一度だけでもいい。
ほんのちょっとだけでもいい。
擬似モンスターと魔法で戦う体験をさせて欲しかった。
遅れて。
俺を追いかけてきた彼女が駆け寄り、俺の背の服をキュッと掴むと、そのまま顔を埋めて泣いてきた。
「どうして? なんでズッキーニで戦ってくれなかったの? 私、あなたの姿にすごく幸せを感じていたのに……」
こんなの死んだ方がマシだ。隣の女の子が使っていた魔法の杖、すごく最新でかっこ良かった。その子が俺を哀れみの目で見てくるんだ。あの冷ややかな視線、めちゃくちゃ痛かった。
それに、ズッキーニは……魔法の杖じゃない。双剣だ。
「どうして? なんで私を信じてくれなかったの? ズッキーニは魔法の杖よ。私がズッキーニに魔法をかけていたの!」
なんで早く言ってくれなかったんだなんて、俺は言いたくない。俺、嫌だよ。あの中で一人だけズッキーニでゴーレムと戦うなんて。
俺の精神は……もうボロボロだ。
「もう何も言わないで、ズッキーニ! あなたはカッコいいわ、素敵よ! あなたは私の恋人でありヒーローよ! それ以外に言葉はないわ!」
……。
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