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カルチャーショック
「エレベーター来たよ」
彼が開いたエレベーターの扉を指差す。
うん、それは分かってる。
分かってるけど、そのエレベーターには乗れない。
「あ、うん。私は逆だから」
「そっか……」
残念そうな彼。
彫りの深い顔に金髪。
日本人離れした彼はもちろん日本人じゃなくて、フランス支社からやってきた生粋のフランス人。
バリバリに日本語を話せる彼は、そのルックスと相まって、社内の女子社員の視線を独り占め。
そんな彼と私は、会社に内緒でお付き合いをしている。
付き合ってみて分かったのは、さすがレディファーストの国。
さりげない気配りは完璧。
そう、完璧なのだが……。
「二人っきりになれると思ったのに」
「ひゃ!」
突然近付いた彼の顔。
耳元で囁かれた声と、僅かにかかる息。
突然の出来事に驚いた私は、思わず悲鳴をあげてしまう。
それを見た彼は、クスクス笑いながら満足そうな顔をしてエレベーターの中に消えていく。
彼はとっても悪戯好きで、空気が読めない。
隙あらば私に悪戯しようとする彼に、毎日ヒヤヒヤ。
私が彼と付き合ってるなんてバレたらどうなるかなんて、彼には理解出来ないようで。
い、今のは誰にもバレてないよね?
慌てて周りを見るも、そこにいたのは彼氏にしたくない社員の常連たる彩都だけ。
まぁ、あいつならアホだし大丈夫か。
うぅ、なんか毎日がスリリングで、今とっても幸せなのに、素直に喜べないよ~。
そんな幸せな悩みを思っていると、ポケットのスマホが短くバイブする。
メール?
すぐに確認すると、彼からのメール。
なんだろう?
そう思い空けてみると……
ボンッ!
そんな爆発音が脳内に響くと同時に、私の顔がみるみる赤くなるのが自分でもわかる。
「だ、大丈夫ですか?顔が赤いですよ!?」
いつの間にやって来たのか、彩都が私の前で不安そうな顔をしている。
「や、大丈夫だから!
エレベーター来たから。
それじゃ」
偶然やってきたエレベーターに慌てて乗り込んで、私はその場をあとにする。
もう、なんなのよ。
彼の悪戯なんて大っ嫌い!!
そう思うのに、ガラスに写る私の顔は綻んでいて、許してしまう私がいる。
昔の私ならこんな事なかったのに、こうなったのは彼と出会ったせい。
カルチャーショック、これからどんなのがあるのかな?
想像すると、私の顔はまた綻んでいた。
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