Πの参

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「街路灯も住宅も殆どなくって、暗いし怖いっちゅーの」  風があったとしても、潮気の混じった粘っこさが纏わりついて気持ちが悪いのだが、風一つない夜は、コンクリートの道路が、昼間に溜め込んだ熱気をジワジワを放出しているようで、足元から熱風が立ち上がっているように感じる。  頭上には涼しい顏をした青白い月が、他人の不幸を喜んだ利己主義な女の惨めな姿を嘲笑っているかのように煌々と照っていた。 「フンッ。一人で追い出された私を笑っているようだけれど、アンタだって一人ぼっちじゃない」
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