Πの参

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 白目を剥き、喉元を押さえながら膝から崩れ落ちる真奈美を一瞥すると、地面に突き刺さった自分の分身とでも言うべき妖艶に光る刃を拾い上げた。  頭上に輝く月を見上げる黒い影は、憂いを帯びた溜息をつく。 「自然に生まれし丸みは、人を魅了し心を奪う。されど、欲に使われし丸みなぞ……醜悪、これ極まりなし」  嘆かわしいとでも言うかのように吐き捨てた言葉は、草叢の中からジィィーッと辺り一面に水が湧き出るような虫の鳴き声に掻き消された。  それはまるで、今宵の残酷かつ華麗なるショーの一部始終を見ていた観客たちが、スタンディングオベーションをしているようにも感じられた。
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