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体中が酷く重く感じ、霞む思考力のままで俺が意識を取り戻すと、和葉だと思われる女が俺を覗き込んだ。同じ顔をしているが、妙に妖艶な笑みを浮かべている。
「まだ喰らい尽くさないわよ。貴方はゆっくり味わってあげる。妖刀村正」
薄い下着姿の和葉はベッドの端に座って俺に細い腕を伸ばす。白い指先が俺の頬に触れると、痺れる様な感覚が走る。それよりも、和葉は俺を「妖刀村正」と呼んだ。人間ではない。
どうして気付かなかったのか、と自責の念が産まれるがそれも霞む思考力ではすぐに消える。
「上手く人間に紛れるのね、貴方。初めは気付かなかったわ」
くすくすと笑う姿は同じ顔の全く別の生き物の様だった。目だけがガラスの様に綺麗な色をしている。今まで人外の化け物の類には沢山会っていたが、危害を加えられた事はなかった。それぞれがそれぞれのルールの中で存在していると思っていた。人間に危害を加える化け物はいくらでも居るが、化け物が化け物に危害を加えるなど、あまり聞かない。
拘束されている訳でもないのに、体は酷く重く、指先一本動かすのも難しい。意識があるだけマシなのだろうか。体の自由がきかなく、自分が一振りの刀であった頃の様な錯覚に陥る。意識だけが諦めにも似た気持ちで、人間に使われる事を否定する。今は目の前の化け物に喰われるのをただ待つだけだ。
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