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「素敵な顔をするのね。絶望に満ちていて、とても素敵よ。もっと苦悶に満ちた顔をして頂戴」
うっとりと笑う化け物は俺の体に指を這わせ、唇を寄せてくる。触れられた先から、痺れと共に力が抜ける。顔を背けたくても自由がきかない。唇を重ねられ、更に力が抜け、意識が朦朧とする。意識を離すまいとすると、化け物は更に顔を歪める。
「妖刀の苦しむ顔もいいわね。妖刀村正、貴方がそんな顔をするとは思わなかったわ」
嬉しそうに化け物は俺の耳元で囁き、耳朶を甘噛みする。体中を緩く這う化け物の指先が俺の首元で止まる。感覚で首の鎖を弄ばれているのだと解る。お嬢が俺に実体を与えた時に唯一残した、俺が一振りの刀だった頃の名残。俺とお嬢を繋ぐ細い鎖。
「鍔の形をしているのね。いいわ。……でも、邪魔ね」
化け物が首の鎖を弄ぶ手に力を込める。俺は残った意識と力を振り絞って化け物の手を払い除けた。依然として体を起こす事は出来なかったが、化け物の手は首の鎖から離れた。
「まだそんな余裕があるのね」
俺の抵抗にも化け物は嬉しそうに笑うだけだ。
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