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元はただの刀だったものが、人の手を渡り歩き、念を込められ、意識が宿った。八百万の神と言うが、怨念を込められ続けても、意識は宿ってしまうらしい。気付いたら、俺は存在していた。人の怨念に使われ、疲弊してもただの刀である俺は何も出来なかった。意識はあっても、モノである事には変わりなかった。そんな俺に、鵺であるお嬢が声をかけた。
「私について来る?」
その時既にお嬢は少女の姿だった。使われる事に疲れた俺はその言葉に頷いた。
「じゃあ、おいで」
お嬢がそう言った時に俺は初めて実体をなした。それからお嬢と共に居る。四六時中ついてまわる訳ではない。意識の奥深いところでお嬢と繋がっているだけだ。お嬢は俺に何も強要しない。
俺は永久の時を彷徨う旅の伴に気まぐれで誘われたのだろう、と思っていた。消滅する事もなく何百年も一人で彷徨うのは寂しいと思う事もあっただろう。俺も、人を斬る事に疲れた。それだけだ。
お嬢は俺を「村正」と呼んだ。元の刀であった俺が妖刀村正と呼ばれる一派の手で作られた一振りだったからだ。解りやすい。今では多分、本当の妖刀は存在しない。村正はただのステータスシンボルだった。現代では正宗と比べた逸話だけが一人歩きする、単純に殺人に特化した流派と言うだけだ。俺以外にも村正は存在する。俺に取っても、お嬢に取ってもただの記号であって、呼称ではない。
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