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ー所有権ー
しかし、そこに確かにお嬢は居た。もう、目を開く事も出来ない俺には気配しか感じられないが、居る。
俺の上に跨っていた化け物の驚く気配がした。
「村正からどいて」
淡々と変わらない口調でお嬢は化け物に要求する。しかし、化け物は動こうとしなかった。
「……村正。私から村正を盗む化け物を私は許さないけれど、村正はそれでもいい?」
お嬢は今度は化け物に組み敷かれている俺に向かって言った。お嬢のはっきりとした意思のある言葉に俺は頷いた。するとお嬢は俺の手を握った。握る手の先から僅かに力が戻ってくる。
「この化け物を貴方で斬ってもいいのね?」
「いいよ、お嬢。手間かけるな」
「いいの」
お嬢が静かにそう言うと、俺の意識は切れた。
まだ一振りの刀であった頃と同じ感覚が俺に鮮やかに戻った。人に使われる感覚。風を切る感覚。肉を斬る感覚。断末魔の悲鳴。返り血を浴びる感覚。お嬢が刀に戻った俺を使って化け物を切り捨てた。
懐かしい感覚は一瞬で俺はすぐに自分の意識に戻った。お嬢に片手を握られたままうずくまっていた。視界の先には猫の死体が一つ。
「……お嬢、あれは何だったんだ?」
「猫又だと思う。精気を喰らう」
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