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それから俺はお嬢から首の鎖の先の鍔に口づけを受けて回復した。すっかり暗くなった街を手を繋いで歩いた。一時だけお嬢の心を垣間見たが、歩いている時にはもう何時もと変わらなかった。物静かで無口で無表情な美しい少女。それでも、俺にはお嬢がはっきりと口にした俺の所有権が嬉しかった。乾いてひびの入っていた心が初めて潤わされ、満たされる。
「お嬢」
「なに?」
「お嬢の力を俺に吹き込むのって、この鎖の鍔じゃなきゃなんなかったの?」
俺はふと疑問に思った事を訊いた。
「違う。でも、村正の唇はいや。誰にでも簡単に触れてるから」
繋いだ手を少し握り返して、お嬢は感情の読み取れない声で言った。けれど、俺はその言葉に嫉妬が含まれていると信じる事が出来る。それが心地いい。怨念以外の感情で俺を所有するお嬢から俺は離れない。
「お嬢、鳴く時は俺を呼べよ」
「どうして?」
「……傍に居る事は出来るから。俺はずっとお嬢と一緒に居るから」
俺がお嬢と呼ぶ鵺はもしかしたら、凄く寂しがりだ。夜に一人鳴いても疫病を撒かないのは、寂しいだけだからだ。だから、鳴く時はせめて俺が居れればいい。髪を撫でる位は出来る。
「じゃあ、呼ぶ。来て、村正」
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