ー鳴く声ー

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 鵺が鳴くと一振りの刀であった頃の刀身が震える様に俺は共鳴する。何を思ってお嬢が鳴くのか俺には解らないが、震えるのは俺がお嬢に寄って実体をなしているからだと思う。 「…ムラマサ?どうしたの、外ずっと見て。もう寝ましょうよ。夜中よ」  ベッドの中から化粧を落としたら幼く見える女の手が伸びた。俺はその手に引かれるままベッドの中の女を抱く。つい一瞬前、カーテンの隙間から見た夜空は黒く覆われていた。雲ではない。また、お嬢が鳴いている。鳴いても、鳴いてもお嬢は俺を呼んだ事は無い。共鳴する俺の奥底を自らの事なのに、どうにも出来ない。震える感覚を無視して俺は手近な女を抱く。お嬢が作った俺の実体は都合が良く、女に不自由しない。  俺とお嬢を明確に繋ぐものは、首に巻き付く鎖の先の一振りの刀だった頃と同じ鍔が小さくなった飾りだけだ。試した事は無いが、それを引きちぎれば俺の実体は恐らく消える。 「ムラマサ、もっとぎゅってして」  抱いた女が俺に乞う。言われるがまま、俺は名前も知らないその女を抱き締めた。
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