ー鳴く声ー

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ー鳴く声ー

 雲と勘違いしそうな黒煙が空を覆う夜は鵺が何処かで鳴く。平安の時代には恐れられていた鳴き声も現代の雑音にはかき消される。鵺に名前はない。その昔はもしかしたら、呼び名があったのかも知れないが、鵺はずっと長いこと俺に呼び名を示さない。伝承で語られる姿とは違い、少女の姿をする鵺を俺は「お嬢」と呼んでいた。  俺はお嬢が伝承の鵺の様に疫病を撒き散らした所を知らない。鵺が歴史の文献に頻繁に出現したのは平安時代だ。俺はそれよりもずっと後に意識が芽生えた。知らないだけかも知れない。俺が知っているお嬢は老いることなく、少女の姿のままずっと時代の流れに身を任せるようにひっそりと生きている。俺は鵺と言う化け物をお嬢以外に知らない。魑魅魍魎の類は人間の目に見えないだけで、現代にも山の様に存在する。けれど、何百年この世に存在しようと、俺は他の鵺に会った事がない。  俺はお嬢の力に寄って実体を保つ事が出来るただの妖刀だ。
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