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「数日前、駅に続く路地で瑞希と偶然会った。
泣いていたし、様子がおかしかったから声をかけた。
……あんただろ、瑞希を泣かせたの」
飯田の鋭利な質問に、浩二は返答に詰まった。
思い当たる節はある。
けど、どうしてそうなったのかは答えられない。
なにも言わない浩二を、飯田はろくでもないやつだと言いたげに一瞥した。
「やっぱりあんたのせいか。
瑞希と3年いて、初めてあいつが泣いているところを見たよ」
独り言のような物言いでも、はっきりとした棘が含まれていた。
棘は正確に浩二の胸を刺して、もともとあった痛みは膨れ上がる。
(……泣いてたんだ)
奇妙なことに、胸の痛みとは別に、頭の中はとてもクリアだった。
彼女の泣き顔は何度も見た。
けれど今頭に浮かぶのはそのどれでもなく、浩二の脳内で作り上げた映像だ。
クリアな頭の中に、彼女の流した涙で冷たい染みができる。
そんな感覚だった。
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