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ふたりどちらも声を発しなかった。居心地の悪い間だった。
しばらくして、飯田がため息まじりに浩二に向き直る。
「……もう知ってるだろうけど、俺は彼女に振られた。
驚くほどあっさりと、もう用済みだとばかりにな」
それについては、なにも言うべきことはなかった。
辻はそういう人だし、瑞希から乗り換えた飯田にも同情の余地はない。
浩二は話を変えて言った。
「さっきの話だけど、どういうつもりって?」
話が見えなくとも、それが瑞希に関係していることはわかっていた。
飯田は腕時計に目を落とす。
「ここじゃなんだし、場所を移そう」と、通路を歩き出した。
次に飯田が足を止めたのは、向かいのビルの光が窓越しにちらついている、会議室ばかりが並ぶ廊下の端だった。
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