第1章

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 その夏、ジェシーがうちにやって来た。  ジェシーは目が青くて、小さくとがった鼻をしていて、くるくるに縮れた金髪がその白い顔を縁取っていた。太っているというのではないけれど、がっしりとした肩と、りっぱに女らしくなった胸とおしりは、私と同い年とは思えないほど迫力があった。  うちの狭い玄関で、青白い蛍光灯に照らされたジェシーは、どこか知らない星に迷い込んでしまったエイリアンのように見えた。 「さぁあがって、疲れたでしょ!あぁ、靴は脱ぐのよ。」  ママは英語と日本語で矢継ぎ早に話しかけ ながら、ジェシーの手をとる。ジェシーはカールしたまつげの奥から、ビー玉のように真ん丸な青い目をくるりとこちらに向けて、 「ハーイ、はじめまして」 と日本語で言った。 「あ、えーと、マリコです。ナイストゥーミートユー」  あわてて、用意していた英語で答える。  ママに手を引かれて二階にあがっていくうしろ姿を見ながら、なんか、違う、と思った。  シンプルな白いTシャツと、ゆったりした太めのジーンズ姿。それは私を少しがっかりさせた。  うちにアメリカ人の女の子が来る。とママに聞いたとき、私はびっくり仰天したと同時に、むくむくと不安が湧いてくるのを感じた。横須賀に住んでいればアメリカ人なんて珍しくないものの、それは基地に勤務している、屈強な軍人たちに限られている。ときにはショッピングセンターで家族連れを目にすることもあるものの、普段はフェンスの向こうで生活を送っている彼らと、私たち日本人の日常が交わることはほとんどない。  でもうちのママは違う。学生時代にカナダに留学したことがあり、英語が少し話せるママは、今でもそれを自慢に思っていて、私が高校に入ってから、市が開いている日本語教室でボランティアを始めた。その中でどうやら、市が交換留学生受け入れ家庭を探している、と耳にしたママは、真っ先に手をあげたのだった。英語が話せて、同年代の子供がいるママの申し出はあっさり市に受け入れられ、無事我が家はジェシーのホストファミリーに選ばれたというわけだ。ただし、全ては私とパパの知らないところで。
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