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「ゆ……う、な……?」
車両には、ほとんど人がいなかった。夕方の、帰宅ラッシュの前の微妙な時間の車内を、夕日がうっすらと赤く染め上げている。
祐奈に似たその人はおかげですぐに見つかった。その人はガラガラの社内にもかかわらず、ドアにもたれかかっていた。
「あの……」
恐る恐る声をかける。
「祐奈、です、か?」
ごめんなさい、ごめんなさい、でも私はこうでもしないと、彼女が居ないという事実を認められなかった。
「え、ええ……ユウナ、ですけど……、あの……はじめまして、ですよね?」
「……へっ??」
彼女は祐奈なのだろうか。いや、でも確かに私は羽田空港まで……。
「うーーん、どう見てもはじめまして、よね?それとも、私忘れちゃったのかしら?」
あらやだ、老化かしら、と首をかしげる仕草は祐奈そのものなのだが、祐奈よりも少し大人びている気がする。
「あ、その……祐奈っていう、友人に似ていて、つい……すみません……」
「でも、私もユウナよ?」
困ったわ、本当に老化かもしれないわ、とおたおたしだす目の前の女の人。
「私の言ってる祐奈は……示す編に右と書いて祐に奈良の奈で祐奈、です」
どうにかこうにか誤解を解こうとするも、頭が一層混乱してきた私は、
思わず変な説明をしてしまった。恥ずかしさと後悔で、体が急に熱くなる。初対面の人間に、いきなり名前の表記を言い出す人はそうそういないだろう。
「あら、じゃあ本当にはじめましてね。私は優しいに菜っ葉の菜で、優菜。そんなに似てたの?あなたのお友達」
ちょっとした仕草に愛嬌があるところ、少し天然なところ、見た目だけじゃない。そっくりさんというよりも、祐奈の別の面を見ているみたいだ。
「とっても、似てます。見た目だけじゃなくて、雰囲気というか……」
面白そうに笑う優菜さんは、この偶然の出会いを楽しんでいるようだった。
「私『世界には自分とそっくりな人が三人いる』って話、実はちょっと信じてるの。これで本当にいるのよって、いろんな人に言えるわね!」
ふふっ、と笑った目の前の優菜さんは彼女にそっくりだった。悪戯っ子みたいな、きらきらした瞳といい、不思議な人だ。
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