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沖田の背後で小さく聞こえた呟きを聞いて、ため息をつきながら刀を納めた。足元に転がった男の鞘を引き抜いて下げ緒を解くと、鞘のほうは少年に向かって放り投げる。
「うわっ」
「刀を」
下げ緒で転がった男を後手に縛り上げている間に、転がった刀を渋々と鞘に納めた少年がぶつぶつとこぼす。
「急に放り投げないでください」
「何を言ってるんです。それに、闇雲に人を斬る様に言わないでください。いちいち斬っていたら取調べができないでしょう?」
「あ、そうか」
やれやれ、と肩をすくめた沖田は、暗闇の中にいてもどうしようもない、と八木家の方へと歩き出した。
いきなり、傍にいた沖田が歩き出したので、動揺していると少し先から振り返った気配がする。
「その男はそのままにしておきなさい。あとで町方に運んでもらいます」
「あ……」
どうしよう、と迷う気持ちが伝わったのか、草履が近づいてくる。
ぽん、と頭に手をのせられた。
「あ、あ、あのっ!」
「うん?どうしました?」
ずるずると、そのまま首根っこを押さえられて、引きずられるように歩きながら、何とか逃げ出そうと暴れる少年に事も無げに問い返す。
「なにを、するん……!」
「気が変わりました。あなたは一度、屯所に連れて行こうと思います。ね?薫ちゃん?」
ああ、やっぱり……。
抵抗をやめた少年が呟いた。
「やっぱり……、わかりますよね」
ふっ、と笑う気配がして今度はあっという間に、肩の上に担ぎ上げられる。
「うわぁっ!」
「ははっ、軽いですねぇ。薫ちゃん?薫くん、かな」
軽々と担ぎ上げられたのは、逃げないようにという事だろう。確かに首根っこを押さえられたくらいではどこかで、隙をついて逃げ出せると思っていたが、抱え上げられてはどうしようもない。
「薫くん。君、何者か話してもらうよ?」
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