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「まあ、いいんじゃないですか?構うなって言うなら……、料理はうまいわけだし、女将もあの子も土方さん好みだし。土方さん、お酒と妓は別なんでしょ?うまく使えばいいんじゃないですか?」
「俺は素人には手をださん。……ただ、うまい店だから近藤さんを連れてくるにはいいかもしれないな」
白々とした顔で茶をすすった土方をみて、沖田は膝を打って笑い出した。
「あっはっは。もう、ほんと、土方さんてばかわいいなぁ。……わかりました。もうしばらくここは様子を見るようにしますね」
「ったく」
「そのために連れてきたんでしょう?」
今度は沖田が遮る番だ。
沖田が本当に笑っていないときほど、たちが悪い。
「総司」
「もちろん、僕が一緒かどうかはわからないですけどね。こういうおいしいお供なら嬉しいなぁ」
水菓子が運ばれてくるまでに、残りを片付けた沖田は湯飲みを全部空にすると、立ち上がって廊下に続く障子の前に屈みこんだ。
平然としている土方はそちらを見ようともしないが、沖田は息を殺したかと思うと、勢いよく障子を開いた。
「……っ!水菓子を……」
いきなり目の前で開いた障子に、目を丸くしているのは、運んできた水菓子と共に廊下に跪いた薫である。
「誰かと思ったよ。君、随分静かだね」
「それは……、申し訳ありません。その様なつもりはなかったのですが……、水菓子をお持ちしました」
立ち上がった沖田が自分の膳の前に戻るのと合わせて、薫は二人の間に膝をつくと運んできた水菓子を差し出した。
その後、盆を後ろに下げてから沖田に向かって薫は頭を下げる。
「沖田先生、改めて先日はお世話になりありがとうございました。お借りした着物は後程お返しにがります」
「なんだ。そんなこと、気にしなくていいんだよ」
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