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「ありがとうございます。土方様、今後とも鞠屋をご贔屓にお願いいたします」
鷹揚に頷いた土方と、胡坐をかいた沖田がひらりと手を振ったのをみて、薫はもう一度頭を下げてから部屋を出る。
部屋からかなり離れてようやくため息をついた。
恐ろしく勘がいい。
剣客ならそういうこともありえることはわかっていたが、それにしてもだ。部屋に近づいて、いくらもしないうちに、ばーんと障子をあけられた。
他意があったわけではなく、少しの興味本位と悪戯心もあって、いつも以上に静かに近づいた。
噂に高い新選組がどのくらいの者たちかという興味。
極力、人との関りを減らして、誰とも距離をとってきたが、その分だけ誘惑は大きい。
新選組だけではない。
―― 京にはやっぱりすごい人が集まるんだなぁ
密かに呟いた薫は気を取り直して、女中達と共に立ち働きながら、母の目を盗んで刀部屋に忍び込んだ。
刀箪笥にそれぞれしまってある刀の中で、土方と沖田の刀がしまわれている引き出しを開く。
躊躇いなく、刀を手にした薫は土方の朱塗りの鞘から刀身を引き抜いた。
「……あ……れ?」
波紋も平凡でよい刀には見えたが、名のある名刀にはとても見えない。
だが、研ぎは実戦向き、重さも力のある土方だからなのか、よく使い込まれている気がした。
「もっと派手な刀だと思ってたなぁ……」
静かに鞘に収めて引き出しに戻すと、沖田の刀を手に取る。黒い拵えを手にすると、かすかに手のひらに刃鳴りが伝わった。
一層、慎重に鞘から引き抜くときに柄をを握った薫は、一瞬、ぎょっとして手を離しそうになる。僅かに血のあとが残る柄紐に驚いたのだ。
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