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時折、足を向けて都合のよい場所をいくつか見つけてある。その一つ、西高瀬川の近くで八木家を過ぎれば後は、畑と田んぼに竹藪ぐらいしかない。
目印にしていた地蔵の脇を竹藪に入る。
道からは見えづらいが、竹藪の中からは道を行く人がよく見える場所だ。
灯りがなくとも開けた場所には月明かりが広がっている。
ふう、と息を吐いた薫は月を見上げて左足を引く。
足元にできた陰は淡い光とは違い、色濃く地面に染み込んでいた。
* * *
屯所がばたばたしているのは毎度のことながら、今日の捕り物は二隊が出張るほど大掛かりなものだった。
「小荷駄の小者を町会に向かわせろ。まだ残してある支度を引き上げるように言え」
「承知!」
浪士四名と、手を貸していた町人三名を捕縛して、それぞれを蔵篭めにしている。
二番隊の永倉と八番隊の藤堂が出張っていたようで、隊士たちも慌しくまだ動き回っていた。
「なんだ。総司、暇そうだな」
「そうみえます?」
廊下の欄干に寄りかかって大階段の下の様子を沖田は眺めていた。藤堂が今は蔵に入っていて、調べをしているらしい。
残った隊士たちを永倉が動かしている。
とうに襷を解いて羽織も普段のものに代えた永倉は伸びかけの髭を撫でながら沖田を見上げた。
「見えるなぁ。そんなところで見物してるならなぁ」
「ははっ。そんなことないですよ。夕餉の膳を下げたところなんです」
ご苦労様です、といいながら体を起こした沖田は袖に腕を入れてその場を離れた。
若いし、腕も立つ。一番隊の看板を背負っている気負いも見せずに軽やかに振舞うが、こうして隊の中の動きもきちんと把握している。
それが沖田だとわかっているから永倉は後追いせずに背を向けた。
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