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即答する沖田に呆れた土方はため息をついた。隣の局長室が空でなければこれほど堂々とため息をつくこともないが、夜になると隣の部屋は不在になる。
凝りに凝った首を回した土方をみて承諾と受け取った沖田は、じゃあ、と立ち上がった。
「総司」
「はい?」
「報告は朝に聞く」
つまり、朝までには必ず戻っているように、という指示に立ち上がった沖田はひらりと手を振った。
「僕はそんなに働き者じゃありませんよ。土方さんも、働きすぎには気をつけてくださいね」
仮にも副長相手にそんな軽口を叩いた沖田は、振り返りもせずに副長室を後にする。
一番隊の隊部屋に顔を見せると、伍長に出かけることを伝えて、刀を手にすると廊下に出た。灯りの入った廊下は、花街に出るものと、風呂に入るものなどまだまだ隊士棟は賑やかなままだ。
頭を下げる隊士たちとすれ違いながら大階段に出た沖田は、そのまま正面に回る。門脇の隊士がおや、と声をかけた。
「沖田先生、お出かけですか?」
「ええ。今日は賑やかでしょう?」
くいと、酒を飲む仕草を見せて苦笑いを浮かべた。
「ゆっくり寝るために少しね」
得心がいったのか、笑顔で隊士は頷いて見せた。
「確かにそうですね。お気をつけて」
「ありがとう。皆にはこれで、お願いしますね。じゃないと、たかりについてくる」
口元に指を立てた沖田に、心得たと胸を叩く。
ひらりと土方に見せたのと同じように手を振って沖田は歩き出した。
島原の方へと足を向けて、灯りのいらないほどの通りを腕を組みながらぶらりと歩く。
あちこちで、お寄りくださいまし、の声がかかるがひらひらと手を上げて申し訳なさそうに断りを入れると、賑わう人々の様子を目に入れる。
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