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第四段 出会い
次の日も巡察のない沖田は夕餉を終えると、市中を歩き出した。
昨日の片割れが同じ場所をうろつくとは思えなかったが、こうした見回りで今までにもいくつも彼らは成果を上げてきている。
屯所を出てぶらぶらとする街歩きはこれといって目指すあてがあるわけではない。
さて、どうしようかと島原を後に回して祇園の方へ足を向ける。木屋町は新選組を診ている南部医師の家があるが、その手前で道を逸れると細い道をすすんだ。
人気がないように思えてこうした裏道の方が人通りは多い。
屯所を出てからしばらくして、沖田は後ろから誰かがついてくる気配に気づいた。
距離もそれほど離れずについてくる気配に首を捻りながら、広い道、狭い道をあえて歩き回る。当然ながら、背後の気配だけに気を配るというだけではなく、周囲にも目配りは怠らない。
「沖田センセ。おぶ、あがっていっとくれやす」
「やあ。ありがとうございます」
お茶だけでもと呼ばれて店先の床机に腰を下ろした。ちらりと視線を向けた先で、後をついてきたらしい気配がふっと物陰に隠れる。
ほんの一瞬だけだが総髪の小柄な姿が見えた。
「……?」
昨日の相手はもっと背の高い、体格のよい男だった気がする。
よくわからないな、と思いながら、湯飲みを片手に店の者とたわいもない話をして、一休みすると立ち上がった。
「ありがとう。お世話様」
礼を言って、その場から離れた沖田は再び歩き出す。特に近づいてくるような様子もないだけに、黙殺した沖田はぐるりとまわって昨夜、男を追いかけた辺りまで歩いていく。
昨夜と違って月は隠れているから、さすがに途中で提灯に灯りを入れてもらった。
手の先でゆらりと揺れる灯りも深い闇の中では狭い範囲しか照らされはしない。
ふと、ずっと背後に張り付いていた気配がいつの間にか移動している。
「……」
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